「アイツがこんな簡単に死ぬはずねぇだろ!
俺の弟だぞ、復讐するって言ったんじゃねぇのかよ!」


支離滅裂に声を荒げる瑠衣を見て、止めて、止めて、とあたしは必死で制止した。


その瞬間に涙が込み上げて来て、頭の中なんてもう、めちゃくちゃだ。


彼はどうにも出来ない苛立ちの中で、ガッ、と壁を殴り付けた。



「もうひとつ、よろしいですか?」


これも一応確認なんですが、と前置きをし、男が再び声を掛けてきた。



「池澤さん、これからどちらに向かわれる予定だったかご存知ですか?」


「……え?」


「いえね、トランクからはボストンバッグも見つかっていまして。
旅行というよりは、引っ越しに近いような感じで…」


引っ越し?


それはつまり、アキトはこの街を出るつもりだったということだろうか。


ならば本当に、あたし達の前から姿を消すつもりだった、と。



「…そん、な…」


ただ、言葉が出ない。


瑠衣もまた、きつく唇を噛み締め、悔しそうに顔を歪ませた。


その様子に、警察の人たちはさすがに追及を諦めたのか、頭を抱えるようにして言う。



「とりあえず、あなたがご家族の方なんですよね?
事後処理もありますので、連絡先を教えていただけますか。」


「お気を落とさずに。」


と、後ろで若い方の男もまた、何の慰めにもならないようなことを口にした。


吐きそうで堪らない。


瑠衣は虚ろな目をし、顔を俯かせた。