普段は怒ることがない瑠衣も、一度キレると手に負えないことはもう明白だ。


アキトがどうして彼を怒らせるようにわざわざ知らせたのかなんてわからないけれど、でも、このふたりの争いなんてもう見たくはなかった。


昨日までは、小さな未来の希望に縋っていたはずだったのに。


なのにこれは、あたしの所為なのだろうか。



「もう二度と俺らの前に顔出すなよ。」


吐き捨てた瑠衣は、強引にあたしの手を引き、部屋を出た。






瑠衣の形相と、血に染まった手を見て震えることしか出来ないでいると、連れ込まれたのは彼の部屋のバスルーム。


蛇口をひねると冷たいシャワーの水が雨のように降って来て、まるでアキトにつけられた汚れを洗い流そうとしているかのようだ。


キスをされたわけでも、セックスをしたわけでもないのに。


なのに先ほどのことが黒点となってあたし達を染める中で、瑠衣とふたり、びしょ濡れになる。



「何でアイツんとこ行くんだよ!」


肩を鷲掴まれ、壁に押し当てられるようにして揺すられた。


瑠衣はまるで裏切られたかのような瞳の色で、あたしを責める。


ただ、それすら怖くて、ごめんなさい、ごめんなさい、と繰り返すばかりのあたし。


首筋を噛み付かれ、顔を歪めてしまうのだけれど、それでも瑠衣は無理やりに自由を奪ってくれる。


彼の気を鎮める方法なんて、これしか知らない。



「お前だけは俺のこと必要としてんじゃねぇのかよ!
なのに何でそういう顔してんだよ!」


ねぇ、一体誰を引き合いにしてるの?


どうしてあたしを詩音さんと同じように考えるの?


言えない言葉だけがただ蓄積され、流した涙も全てが冷水によって掻き消された。




痛いよ、瑠衣。