鳴ったのは、瑠衣の携帯。


彼はそちらを一瞥し、舌打ちを混じらせる。


相手はアキトなのか、それともあの、アミとかいう女なのか。


考えれば考えるだけ胃の痛みが増していきそうで、堪らずあたしは目を逸らす。



「電話、鳴ってるよ。」


嫌に耳障りな、機械音。


まるであたし達の行為に警鐘を鳴らしてでもいるかのようなそれが、響き続ける。


胃も、心も、体でさえも、何ひとつ思う通りに動いてはくれない。


うずくまるように膝を抱えるあたしを見かねたのか、瑠衣によってベッドまで運ばれた。



「心配しなくても、こんな状態のお前放ってどこも行かねぇよ。」


優しくしないでほしい。


悲しそうな目をしないでほしい。


そんな風に扱われる度に、自分自身の形が保てなくなる。


壊れていたのがあたしだったのか瑠衣だったのかは、わからないけれど。



「ここにいて。」


望みにしては、あまりにも幼稚な言葉だったのかもしれない。


それでも瑠衣は安心させるように口元だけを小さく緩めて見せ、そっとあたしの手を取った。


この街で生き、この男と眠る。


居場所というには頼りないほどの、瑠衣の腕の中。


なのに安堵感に包まれているなんて、どうかしているのかもしれない。