浩之は、つい、状況を忘れてエイジュに見惚れてしまった。

「浩之が狙われたのはあたしのせいなの。あたしが、あなたを英樹と間違えたから」
 
浩之は、我に返ってエイジュを見た。

「間違えたから?そんなのが、オレを殺そうとする程の理由なのか?そんなことのせいでで、オレは殺されかけたっていうのか?」
 
見知らぬ男二人に拉致されて。

「“そんなこと”が充分な理由なのよ。

“目撃者は殺せ”っていうのが、組織の鉄則だから。浩之は、あたしが間違ったせいで、あたしの顔も、あたしが誰かを殺そうとしていたことも知ってしまったでしょ?だから、殺さなければならない人間のリストに載ってしまったの」

突然、塀の向こうから、高い音が響いてきた。

浩之は驚いて振り返った。
 
非常事態を知らせるサイレンの音らしいけど。

「バレたみたいね」

 エイジュは塀の向こう側を見ると、そちらに背を向けて歩き出した。