「いやぁ、もえぎちゃんって、本当料理上手だよなぁ。俺、ここ最近太ったような気がするなぁ」


そう言いながらも、料理に手をつける前に、まずはえだまめとビールの部長。


私はチキンのトマト煮やらをつまみながら同じくビールを飲んでいた。


「華奢な身体して……部長、もっと太った方がいいですよ」


「そーかぁ?」


部長は自分のシャツをひっぱり、襟から自分の胸板を覗き、ふむ、と呟いた。 

私は、窓にかかっているボロボロのカーテンを見ながら言った。


「部長、ベロベロに酔う前は、正常ですよね」


「正常? にゃはは」


「暴れませんよね」


「ああ、……うん」


部長は背中の後ろで片手をつき、両足を立ててビールをぐいぐい飲んでいる。


「部長」


私はテーブルにビール缶を置いて言った。


「ん?」


「昨日……今日の朝方、私のこと、他の女のひとの名前で呼びましたよね」


部長はどんなに飲んでもどんなに暴れても記憶はなくさないと言っていた。


だから、私のことを“さやか”と呼び、“会いたかった”と泣いて抱きついてきたことも覚えているはずだ。


部長は、私の言葉に身体をぴくっと振るわせた。


「さやか、って誰なんです? いつまでも部長を苦しめてるのは何なんです?」

彼は、驚いたような顔をして私を見た。


「なんでそんなに苦しんでるんです? いつまでも。いつになったら開放されるんですか?」


私は語気を強めて言った。