「えっ?」


「3年近く帰ってないな。ほんと」


それは、何でですか――?

聞きたかったけれど、何故か聞けずにいた。


何か、あるんだろうな、と、ふと思った。


それは、この部屋が荒れている理由にも何か繋がるような気がする――。


「……」


私は何も言わずに、ビールをぐい、と飲んだ。


部長は私をチラリと見、そして同じく何も言わずにビールを飲み干した。


次に彼は牛スジの煮込みに手をつけようとして、お皿を取ると、気がついたかのように私を見た。


「――ワイン、飲みたくない?」


「ああ、牛スジに合いますね」


「コンビニ、行こうか」


「はい。――あ、私行ってきますよ」


「ダメだよ。女の子ひとりじゃ」


「――はい」


女の子扱いしてくれるのが、なんだか嬉しかった。
 

7月の夜は、まだ昼間の暑さが残っているようで、アスファルトからくるものも、お月様が運んできてくれた夜の空気もまた暖かかった。


気持ちがいいな。


夜の空気。


ホロ酔いだし。


「――恋人同士でもないのに、どうして僕らは一緒にいるんだろうね」


船のように闇間にぽっかりと浮かんでいる三日月を仰ぎながら、部長は言った。