――なんだか部長は、私には踏み込めないところにいるような気がする。


私は部長がトリップしている間、ただ黙って料理を食べ、ゴクゴクとビールを飲んだ。


部長はぼんやりしながらも、時折気がついたかのように酒をあおった。


沈黙がどれくらい続いただろう。


どれくらいの時間が流れたんだろう。


突然。


東雲部長は、泣きだした。

初めは、鼻をすすっていたから、鼻水でも出たのかと思っていた。


けれど。


やがて、むせるように号泣し始めた。


「ぶ、部長?」


部長は壁にもたれて、両手を床について、涙をだくだくと流した。


私は驚いたけれど、部長の元へと行ってティッシュの箱を渡そうとした。 


すると、部長はそのティッシュを払いのけた。


払われた箱は、対面の壁にぶつかった。


泣き顔を隠すことなく。


流れる涙を拭うでもなく。

ただ、泣きじゃくっていた。


東雲部長が……。


というか、大の男のひとが、こんな風にして泣くのだなんて、初めて見た。


私、どうしたらいいんだろう。


「私、帰った方がいいですか?」


そう尋ねたけれど、部長はただただ泣き続けるばかりだ。


こんな状態の部長を放っておくのも心配。


だけど、ひとりになりたいのかもしれない。


私はとりあえず、部長の傍から離れようと、立ち上がろうとしたところだった。

「――!」


部長が、私の背中に抱きついてきた。