彼に暴力を振るわれるのではないか、と少し怖かったんだ。


「同じ編成ですね」


「ああ、まず明日は選曲会だな。ああ、あとグループ名も決めなきゃ」


「そうですね。去年は、編成の名前、何でしたっけ」

「俺のところは、“天才東雲頭脳集団”だったな」


「あははは。そうですもんね。東雲部長、楽譜に忠実に吹きますもんね。機械みたいに」


「そうらしいね」


だけど、その実、感情たっぷりでオーボエを吹ける部長もいるんだ。


淡々と演奏する時と、思い入れたっぷりの時と、日によって違うんだ。


けれど、いつでも楽器を構えると、麗しさが漂う先輩。


そういう姿、私はとても好きだった。


「もえぎちゃんのところは、なんて名前だったっけ」

「あ、“さえぴゅー”です」


「そうだったそうだった。言いにくい、“ぴゅー”。なんでだっけ」


「同じ編成に冴江先輩がいて、楽器を吹き終えるとなぜか“ぴゅー”と言いながら吐息をついてたからです」


「そうそう。冴江、変な癖あるもんな」


冴江先輩とは、私のいっこ上のフルートの先輩だ。


長い黒髪が麗しく、美人なんだけれども、どこか天然ボケが入っていて、可愛らしいひとだ。


今年は私とは別の編成になってしまった。残念。


私はそう思いつつも、梅酒のワンカップを空にした。

「なんだ。そうだったよな。もえぎちゃんもお酒、イケる口だったよな」


そう部長は言うと、ガサゴソとコンビニ袋から缶チューハイを出してくれた。


「ああ、でももう充分です」


「そんなに酔ってないじゃん」


「お腹いっぱいで飲めないですよー」