私はそっと涙を拭い、自動で開けられたドアを出た。

ここは――どこだろう。


学生アパート街のようだけど、少し私たちの大学からは離れている。


むしろ、教育大学に近いところなんじゃないだろうか。


部長はコンビニ袋を両手に提げて、“おいでよ”と私を促した。


ここへ来て、少しひるんでしまった。


お酒の勢いと、夏の夜の魔法で部長についてきてしまったけれど。


あまり、部長とはしゃべったことがない。


そんな先輩の家にお邪魔する、だなんて。


そんなこと、図々しく思えてきた。


――えーい、いいや。


ウワサになっても、いいし。部長がおいでって言ったからついてきたんだ。


萎縮しなくてもいいや。


それに、なんか。


なんか……部長のこと、ほっとけないよ。


東雲部長の部屋は、2階建てアパートの1階の一番奥の部屋だった。


部長は細くしなやかな手で鍵を開けた。


「入っていいよ」


「あ、はい。お邪魔します」


――男のひとの部屋だ。


部長の部屋だ。


私は内心とてもうかれていた。


中に入ると、部長が電気をつけてくれた。 


真っ直ぐ伸びている廊下には、一台の洗濯機。


蓋はきちんとしまってあるし、周りに脱ぎ捨てた衣類もない。


きれいにしてる。


数歩歩くとキッチンだ。リビングに続く、ドアの右手にあった。


ここは若干、荒れていた。