「おつまみだけですか? 朝とかお昼とかはどこで食べてるんですか」


「どこでも」


いつもの部長の軽いしゃべり方。


「どこでも食べるってこと? 学食とかお店とか?」

「いや、どこでも食べてない。朝は二日酔いだし、昼間はそのままの勢いで何も食べる気しないし。そのまま夜になって酒とつまみ」

だから、こんなにも身体が細いのか。


「よくそんな生活続けていられますね」


タクシーが悪路でワンバウンドした。


私と部長の腕と腕がぶつかった。


腕、というか骨にぶつかった感じだった。


「楽器吹いて貧血おこしませんか?」


私はお腹が空っぽだとクラリネットが吹けない。目の前が真っ暗になって、ふらふらと倒れてしまう。


「あー、腹にはなにか入れるようにしてるよ。オレンジジュースとかポカリとか」


……じわっ。


私はなんでだか、涙ぐんでしまった。


何が、部長をそうしてるの?


どんな悲しみがあるの?


いつもひょうひょうとして、部長という大役をかっている東雲先輩。


そんな生活を送っていたんだ……。


いつも、その表情に翳りがあるのは、感じていた。


だけど、――その翳りの理由はもっと他にあるような気がする……。


「あ、ここで降ります」


部長が運転手さんに言った。