「簡単な事です。私とヤース、残り数名の兵士以外を率いてあっちこっち動いて敵の目を受け続けてください。無論大砲の射程内で。」
 「囮になれ、と。しかも射程内で。」
 「不可能なのですかな?」
 「不可能だ。あれは特別製で気がついたら、ドッカーンだ。」ベルカントは両手で丸をつくり、声に合わせて両手を反対方向に広げた。
 「特別製?どういう事なのだね?」
 「普通の大砲は二段階だが、あれはもう一段階あるんだ。肉眼で確認できる頃に爆発して、その勢いで小さな砲弾が広範囲に広がるんだ。異常な程の早さで…。」
 「城壁を壊したところで城にたどり着く事自体難しいではないか!」
 「ヤース少し黙ってろ。で砲火台はどこに?」
 「城壁から顔を出しているのがそうだ。」
 「……何とかなるでしょう。では、ベルカント卿も私の護衛を頼みます。壊したなら誰よりも早く向かってください。」ベルカントが頷いたのを確認し、
 「では、決行は夜明け少し前って感じで頼みます。」
 「ゴホン!およそ4時間後にまた会いましょう。戦場で。」ヤースの言葉により作戦会議は終わった。
  ベルカント城南門まで15kmの地点。砲火台は南門の上辺りに顔を出していた。
 「さぁ皆の者。しっかり守ってくれよ。」腰まで伸びる赤髪の女性事エレジーが、細長い筒のような物を触りながら呟いた。高さは約5m、半径約2mである。その筒の近くに座り手を合わしぶつぶつ呟き始めた。作戦開始であった。
 「最前線では、戦闘が始まったそうですぞ。ベルカント卿。」
 「敵の陣形は?」
 「凹字型だと思われます。我々は、凸字型に近いです。」
 「大砲は使われているか?」
 「今の所使われてはいません。」
 「そうか。では少しちょっかいを出してくるか。騎兵隊11名私に連いてこい!」
 最前線・中央部隊では、あちらこちらで、鍔ぜり合いや剣を突き刺していたり、血生臭い事になっていた。倒れている者6割はサザークル国軍であった。白髪、白髭の老将が、鎧を朱く染めながら周りの兵士達を励まし、鼓舞しながら敵を一人また一人と切り伏せていた。そして奥の敵の方で絶叫が聞こえ始めた。
 「エレジー様が成功されたのか…にしては急だのう。…わしに続け!敵を一掃するぞ!」雄叫びをあげながら総攻撃に転じた。