浩司さんは私を見ると懐かしいと驚きながら、私に微笑みを見せた。



少しの違和感はあるが、私と美千代さん、浩司さんの三人で食卓を囲んだ。



ヴィーナー・シュニッツェルの肉を右手のフォークで刺し、左手のナイフで肉を一口サイズ切り、一口サイズになった肉を口に運ぶ浩司さんの姿を、私と美千代さんはじっと見つめた。



「うまいっ」と浩司さんが私と美千代に向けて放った。私と美千代さんは顔を見合せて軽くガッツポーズをした。



浩司さんの言葉に満足した私と美千代さんはヴィーナー・シュニッツェルを食べ始めた。



お風呂の浴槽の中に甘ったるい蜂蜜を流し込んで肩まで浸かってるような、幸せな空気が食卓に充満していた。



浩司さんは楽しそうに私と号君の幼い頃の話を昔話のように話していたが、浩司さんと美千代さんの瞳から透明で生暖かそうな涙が流れていた。



浩司さんは左腕で涙を拭きながら私に「ありがとう」と笑った。



ただ私は、美千代さんと浩司さんの手を握りしめることしか出来なかった。



食事も済ませて浴槽の中で私は考えていた。



多分、浩司さんと美千代さんは号君の趣味の事を知らないのだろう。
もし、趣味の事を知ったら悲しむだろうなと思うと私は堪らなく悲しい。



だから、号君の趣味のことや動物虐待事件のことは、私の胸の中にずっと閉まっておこうと改めて思った。


体の汚れを洗い流すように人の悲しみも流せたらいいのにと自分の幼稚な考えに苦笑した。



そして、私はお風呂場から出た。