紅茶から湯気がほんわりと風船の様に膨らみを持ちながら天井に向かっている。


その湯気のカーテンの奥から美千代さんの顔が見えた。



美千代さんには似合わない悲しげな表情を浮かべながら私に向かって口を開いた。



「亜美ちゃん…………変なことに巻き込んでごめんさいね」



美千代さんは少し掠れた声で私に謝罪した。



「いえ、号君を助けてあげることが出来なくてごめんなさい」



私は何も出来ずに、ただあの光景を見るだけだった。
私が、号君を止めていればこの最悪な結末にはならなかったのではないか……………。



私が号君を殺したと言われても否定は出来ないと思った。


美千代さんは悲しげに私の謝罪に「亜美ちゃんは何も悪くない」と言って、それから事件の話をしなかった。



その後も美千代さんと数十分ぐらい話した。



号君は海老フライが好きだったとか、号君の小さい頃の話を美千代さんは偽りのない笑顔で私に向かって喋っていたが、美千代さんの笑顔を見ると私は胸をナイフで突き刺されたように苦しかった。



リビングの右に襖があり、襖を開けると七畳ぐらいの畳の部屋が現れる。



そこには仏壇が設置されており、観音開きに開いた仏壇の中には号君の写真が立てられている。



私は号君にお線香を焚いてあげようと椅子から立ち上がろうとするとき、美千代さんは悲しげに笑い「号にお線香を焚いてあげて」と言われ、私は顎を引きコクりと頷いた。



私は仏壇の前に正座で座り、正面の号君の写真を見ると不謹慎ながらも落ち着くような感覚になる。



ライターでお線香に火を付けて軽く振ると火種になり煙がすっと天井に向けて上がっていくお線香を仏壇にお供えした。