僕は倒れた須藤愛弓を見下ろしながら手に残る感触の余韻に浸っていた。



余韻に浸っている僕の側に亜美が歩み寄って僕の袖を引っ張った。



怯えて顔が青ざめている亜美が唇を震わせながら僕に「逃げよう」と言ってきたのだ。



号は自分の袖を掴む亜美の手をゆっくりほどいた。



須藤愛弓の親が捜索願いを申し込むのは、多く見積もっても一週間以内だろう。


それから警察が調査を始めるが、ここは廃墟だから容易く見つけることはできないはずだ。



そんな事を考えながら僕は須藤愛弓の横腹に刺さった果物ナイフを抜き取り、それから壁に刺さった果物ナイフを抜き取ってポケットに入れて振り返ろうとした瞬間だった。



突然、亜美の声が僕の耳に届いた。



「号君!!!!!」



重い物体が僕の体に飛び込んで、心臓が破裂したような衝撃を受けた。



口から粘着のある赤黒い液体を垂らした須藤愛弓が悪魔のような笑いを浮かべながら僕と密着しているのだ。



遅れて痛みが走るのを感じて痛みの発信源を辿ってみると須藤愛弓の手が赤く染まっていた。



須藤愛弓のバタフライナイフが僕の心臓に突き刺さっていたのだ。



号は心臓に突き刺さったバタフライナイフを抜き取り須藤愛弓の心臓に突き刺さした。



二人は重なるように倒れ、血の海に体を沈めた。



亜美は無我夢中で駆け寄り号を抱き自分の膝の上に号の頭をのせた。



朦朧とした意識の中で亜美の顔が見え、涙を流しながら何かを叫んでいるようだが僕には聞こえなかった。



「亜美、何で泣いているんだい??僕は二つも夢が叶ったんだよ、人を殺すという感触と快感、死の恐怖と幸せを味わうことが出来たんだよ」


亜美にそう伝えると僕の意識は途切れ、本当の暗闇が僕を支配した。



亜美は笑顔の号を抱き締めたまま少しの時間を過ごした。



床にはバタフライナイフと果物ナイフが赤く染まり、暗闇の中で異様な光を放っていた。