｢確かに須藤さんの作品には共感するけど、僕はまだ感じたことのない快感があるだよ。だから、僕は君の作品になるつもりはないよ」



号は一通り喋った後、ジーンズのポケットから果物ナイフを取り出した。



恐怖で体か硬直している亜美が｢やめて」と号に伝えるが、二人には聞こえていないのか、瞳をギラつかせながら睨み合っている。
獲物を狙う悪魔のように。


｢あら、どうしたのその果物ナイフ。あなたも欲望を隠さない人ね、号君」



号は笑いながら須藤愛弓に言葉を放った。



｢僕は人を殺したことは無いけど、たまに野良犬や野良猫殺しをしてるもんでね。そのためにいつも果物ナイフを持ち歩いているんだよ」



｢あぁ、あの事件は号君だったの。新聞の端で小さな記事になって載ってたわね」



島の大半の人は生け贄事件に目を向けていたため、号の動物虐待事件はあまり記事にはされなかったのだ。


｢なんで………そんなことしたの」



亜美は恐怖の中に悲しみを織り混ぜながら僕に向けた。



｢欲望のためだよ、人を殺すとリスクが大きいけど、野良犬や野良猫を殺したぐらいではリスクは付いてはこないからね」



亜美は号の真実を知って何も考えることが出来なかった。