『とりあえず、コッチ。』


それだけ言い、エイジはあたしの腕を引っ張った。



「ギャー!!
ちょっと!!離してよ!!」


と、声を上げてみたが、エイジが聞く耳を持ってくれるわけもなく。


あたしはまた、人々の注目の的となり、ついでに好奇の目線を向けられる。


混乱している頭はまだ上手く働かず、とりあえず引っ張られている腕が痛い。



連れてこられた場所は、今朝と同じ非常階段。


だけど思い出すのは、あの保健室。


壁に押し当てられたあたしの左右の逃げ道さえ奪うように、エイジの腕に塞がれ。


その鋭い眼差しが、あたしの瞳を捕らえて離さない。



「…エイジ…?」


問い掛けに、エイジは大きなため息をついた。


そしてポケットから何かを取り出し、あたしの顔の前に差し出す。



『…捨てるなよ。
探すの、すっげぇ苦労したんだけど。』


「―――ッ!」


それは、今朝捨てたはずのストラップだった。


どこに落ちたのかもわからないのに、エイジは探してくれたの?


戸惑うあたしに、エイジは再び問い掛ける。



『…てゆーか、何でイキナリ“別れる”とか言うの?』


「―――ッ!」



そうだった!


こんなことで胸キュンしちゃダメだ!!


だけどあたしが口を開くより早く、エイジは次の言葉を掛ける。



『…てか、今朝“好き”とか言ってたじゃん。』


「―――ッ!」



ギャー!!


それのことも忘れてた!!