昇降口の方へ回り込むと、今度は図書館の方から、怪物がゆっくりとやって来るのが見えた。
「ふへぇ、こいつはマズイな、どうするよ冴子?」
「連絡通路の入口だ! そこからHR棟に人れ!」
冴子の指示が飛ぶ。
「マジか冴子?」
「大マジだよ!」
ガタガタと桟を乗り越えると、ガラス戸を引き開けて中へと入り込んだ。
「うわ、滑る!」
ワックスの効いた廊下は、リヤカーのタイヤではツルツルと滑り、危なっかしい。
「う、うわわわわっ!」
「わあっ!」
横滑りしながら止まろうとした信二だったが、耐え切れず、タイヤの片側が浮き上がり、リヤカーは横転した。新聞紙がそこいらにばらまかれる。
冴子は投げ出されたが、足をかばいつつも見事に着地した。
「うう、いててて」
一方の信二は壁に激突し、新聞に埋まっていた。
「大丈夫か信二?」
リヤカーを起こしつつ、冴子が声をかけて来た。
「あ、ああ、なんとかね……」
新聞の中から、かきわけるようにして信二が出て来た t
「急ごう」
再び信二はリヤカーを引いた。
死神と怪物は相変わらず少し離れた位置ながら、確実に信二たちを追って来る。
……廊下はツルツル滑るので、多少ゆっくりと進むが、それでも結構スピードが出てしまう。リヤカーは廊下の幅より少し小さい程度なので、油断すると壁に直撃してしまいそうになる。
まもなく北側の出口というところで、再び冴子の声が響いた。
「そこの角、誰かいる!」
走りながら見ると、非常灯の明かりに照らされて何者かの影が廊下の床に映し出されていた。
「まずいっ!」
影の正体が廊下に現れた……和哉だった。