……突然。
「信二、右だ、ここを右に行け」
冴子の声が信二の背中から響く。
「右って、体育館に行くんじゃないのかよ?」
「いいから行けって!」
信二は冴子の言葉通りに右に九十度向きを変えると、段差になっている所を下りた。
「あいたっ!」
振動が冴子の腰に伝わる。
管理棟とグラウンドの間、コンクリートの道をリヤカーは走った。渡り廊下とは違い、ガ夕ガタと振動が来る。
「信二、ストーップ!」
冴子が叫ぶ。
途端に信二も足を止めた。
「ぜいぜい、なんだよ?」
多少、息があがったまま信二は聞く。
「ちょっと待てって」
そう言うなり冴子は後ろを振り向いた。
後ろでは、さっきリヤカーが下りた段差の所へ、ようやく死神が来たところだった。死神は段差を下りてこちら側へと来るようだ。
「ふーっ、よかったな」
「何がいいんだ、こっちへ来るんたぞ」
信二は冴子の考えが、理解出来なかった。
「あのなあ信二、あの渡り廊下がどこへ続いているか忘れたのか?」
「あっ!」
「そうだよ。体育館に続いているんだろう? もし体育館の方に行かれたら計画はオジャン。おまけに、体育館に一人の魅奈はどうなっちゃうんだよ」
逃げる事で頭が一杯だった信二は、そこまで頭が回らなかった。
「そうか、悪い冴子。俺そこまで頭が回ってなかった」
「わかりゃいいんだけどさ、そろそろ行った方がいいんでない?」
気が付くと、死神は結構近くまで来ていた。
慌てて信二は再びリヤカーを引いた。