……教科室前。新聞部の部室では信二が新聞紙の束をせっせと運び出し、それを冴子がリヤカーに積んでいる。リヤカーはいつも、昇降口の下の職員駐輪場のところに置かれている。
「おーい信二、とりあえずこれ位にして一回運ぼう」
「え、まだ積めるだろ?」
「馬鹿、私が乗る事も忘れないでよ」
「あっ、そうか。よし、ひとまず行くか」
冴子がリヤカーに一栄り、信二がリヤカーを引いた。
「ぬ、くくくくく、お、重い」
懸命に力を込める信二だったが、タイヤは動かない。
「悪いねー、私が足さえ怪我してなけりゃ、手伝うんだけどね」
「だったら、ここに残っていればいいのに」
全く悪いとは思っていない口調の冴子に信二は毒づいた。
……ようやくリヤカーが動き出した。一度動き出せば止まるまではそれ程力を入れなくても動く。
「か弱いレディを置いてくなんて、男として酷いとは思わないのかな信二君?」
「冴子なら、大丈夫……」
「何か言ったか?」
冴子の堅いブーツの感触が背中に当たる。
「いえ別に」
これでは信二は、完璧に馬車馬以下の扱いだ。
体育館までの渡り廊下も半分程来た。辺りは相変わらず静まり返っていて、変わった様子はない。
「信二には女心をいたわる精神ってものが足りなすぎるんだよなー」
「そうか? これでも女子にはフェミニストで通っているんだけどな」
「なにがフェミニストだ。たった一人の女の子の気持ちにも気づいてやれないくせに」
冴子の言っている女の子とは魅奈の事だ。
「女の子? なんだよ。その子、俺に気があるのか?」
しかし、信二は全くわかっていない。
「この鈍感!」
直後に冴子のかかと落としがきまった。
体育館の入口のドアを開けると、中から一人の女の子が走り寄って来た。
「お帰りなさーい。やっぱり一人は寂しかったです」
魅奈は嬉しそうに、信二の腕にしがみつく。
「ただいま魅奈ちゃん。一人で寂しいだろうけど、こっちも直ぐに終わらせて戻って来るからね」
信二と魅奈の相変わらずの仲のよさに、ほのぼのする冴子だったが、魅奈の気持ちを知っている為に、もどかしくもあった。