俺は荷物を取りに一度自宅に戻る事にした。



もしかしたらまだ、結華がいるかも知れない





会いたい





でも会ってはいけない






「結華……」





そんな複雑な気持ちを胸に俺は扉を開けた








「もういないか……」




今まで二人で幸せな時を過ごしてきたはずのこの部屋は




何事もなかったかのように




結華がいた事を否定するかのように




結華の存在は微塵も残ってはいなかった





「荷物……全部持って帰ったんだな」




洗面台で重なっていた二つの歯ブラシ


テーブル下に置かれていた化粧品


クローゼットに入り乱れていた二人分の服


絡み合っていた二つの充電器





全て一人分になった





結華が来る前と同じ





薄暗い冷たい部屋






きっと





結華も別の道を歩き出したんだ





きっと……










「香織さん」



俺は最低限の荷物を持って、香織さんのアパートへと戻った。



「直くん。これからもよろしくね。」



「はい。よろしくお願いします。」