「スッゴく綺麗な子に会ったんだよ、今朝」
「そういう話なら興味ある」
前の席の鳴海秋生(通称ナルオ)は、腕を伸ばし背伸びをしたそのままの体制で僕を見た。
ワックスでごわごわしたナルオの金髪を引っ張りながら、テスト中に大量生産された消しかすを払う。
「実は今日、痴漢にあいましてですね、」
「美人痴女?!」
「ちげーよ」
髪をつまむ手に力を込めると、ナルオが小さく悲鳴を上げた。
「じゃ、何。」
「助けてくれた人がスッゴく綺麗で!同じ制服だったんだけど」
「お前が助けてもらわなきゃいけないようなタマかよ?顔は女みてぇだけど…痛ッ!怒んなって!」
「…スッゴくカッコ良かったんだよね~何あれ王子様?みたいな」
「男ですか…」
「いや女の子だけど」
「つかお前プライドとかって無いのかよ」
「だーかーらー徹夜明けで眠すぎてどうでもいいの境地に至ってたんだよ…あの子見たら全部吹っ飛んだけど。ついでに英単語も吹っ飛んだし」
ナルオが鉛筆で僕の机に落書きをする。
その手が通った机の上には如何にも何も考えてなさそうな楽しい文字で
"What's happening!?"
と書かれていた。
その鉛筆を奪い何気なく机の上を滑らせていく。
"Unbelievable!"
(信じられない!)