朝のラッシュでその日は満員だった。テスト最終日。徹夜明けだった僕は、今なら立ったまま眠れる…そんな事を考えながら吊革を掴んだ。
こういう時って、妙に電車の揺れが心地よかったりする。
あぁー今日で終わりだ、帰ったら即寝よう…
眠い。とにかく、眠い。
……と、あれ、なんか違和感…
なんか尻の辺りでもぞもぞ動いて…―って、痴漢?!
(コイツ、僕を女と間違えてるな…)
不愉快ながらも眠さに落ちてくる瞼が重たくて、目をうっすら開けて身を捩る。
実はこれが初めてではない。
…僕のどこをどう見たら女の子に見えるんだ?
もぞもぞ気持ち悪い…あぁ、でもダメだ、眠い…眠すぎる…
その手を捻る事は簡単だが睡魔に支配された僕はまた舟をこぎ始めた。
この狭い空間で手を動かすことすら煩わしい。
あぁ、意識が遠のいて―…
「痛っ!!」
突然至近距離で悲鳴が上がって、僕はハッと目を開いた。
「いい加減にしろよ、この変態オヤジ」
その粗暴な言葉使いにあまりにもそぐわない凛とした声。その声の主は、細い腕でギリギリと僕を触っていた男の手を捻りあげていた。
「え…」
僕は固まってしまった。その人が女の子だったからもじゃない。
女の子に助けられてしまった恥ずかしさが吹っ飛んでしまう程、彼女に見惚れてしまったからだ。