10月5日

俺は1ヶ月ぶりに大阪に行くことにした。

しっかり話をする覚悟をして。


新大阪駅で待ち合わせ。

「健吾!!!」

恵莉奈はいつになく元気で、
俺の腕につかまってきた。

振り払うこともできず、フラフラ歩き出した。


「お昼ご飯何がいい?」

「うーーーん・・」

「じゃー、ココ!!」

おしゃれなカフェ。

窓から外を歩く人たちを見ながら、恵莉奈は俺に話す隙をあたえないくらい一生懸命話をしてる。

俺と恵莉奈が出会った頃の話。
自分の家族の話。
一ヶ月前に行った旅行の話。

「恵莉奈・・」

「でねでね、森野くんがね・・・」


最近の俺は、
恵莉奈と話す気分になれずに、電話しない日、メールしない日・・
そんな日が続いていた。

きっと、話したいことがたまっていたんだろう。


言い出せなかった。


「今日は、大阪に泊まっていくんやろ?」

「いいや、明日東京で予定があるんだ。もうちょっとしたら帰るよ。」

「そっか。私も明日は昼から約束あるし、仕方ないよね。」


やっぱり言い出せなかった。


新大阪駅、改札。

新幹線出発時間5分前に、恵莉奈に手を振ろうとした。

「健吾」

俺の胸に顔をうずめて、涙声でつぶやいた。

「私、ずっと健吾と一緒にいるって決めてるんだからね。
絶対、離したくないんだからね。」


俺は何も言えなくなった。

いつもなら、ちゅっってバイバイするけど、
今の俺にはできなかった。

頑張って笑顔をつくってる恵莉奈を見て、
自分の中途半端さに改めて気付いた。


最低だ。