そう名乗ると、女の人は満足そうに微笑んだ。
「輝君っていうんだ。いい名前ね」
そう言って目を細めて笑った。
ドキ……。
まただ。
オレは俯いて胸に手を置いた。
ほんの少しだけど、たった1回だけ跳ねただけだけど。
かすかに心臓が変化を見せた。
するとかなえさんはキョトンとオレを見つめた。
「どうかしたの?」
「あ、いや。何でもないです」
そう言うと、“そっか”って言ってニコッと笑った。
そしてオレの前にあるノートを見下ろす。
「へぇー。こんな難しい問題やってるんだ」
そう言って長たらしい数式を感心した様子で見ている。
「オレ。一応医者目指せてるんで」
「お医者さん?」
そう聞き返すかなえさん。
は、どこか寂しい表情でオレを見つめていた。