それから何日か……。
オレは毎日この図書館に来て、1人で勉強をしていた。
オレは人の顔を覚えるのが苦手だけど。
あの時見た女の人の顔は、今でも鮮明に覚えてる。




あの時見た、寂しげな表情が何かを訴えてる気がしてならなかった。
何でオレ……こんなに気になってるんだろう。




芽衣とは仲直りしたのに何でこんなにモヤモヤしてるんだろう。
初対面の人のあの表情が気になってこんなにモヤモヤしてるんだろう。




その2つがゴチャゴチャで……。
何が何だか分からない。




「分かんねぇ……」




数学の問題も。
芽衣の事も。
女の人の事も。
自分の事も。




「この問題分からないの?」




突然頭の上から降りかかった高く澄んだ声。
鮮明に覚えているその声に、オレは目を見開いてバッと顔を上げた。




「あ……」




オレの座っている席のテーブルに手をついてオレのノートを覗き込んで微笑む。
あの時の女の人。
耳にかけていた茶色の綺麗な髪はサラッと顔を隠すように落ちた。




「久しぶりだね」




そう言って微笑む女の人は自然にオレの隣に座った。