開けたままにされたドアの向こうには、不安げなエイダの顔が覗いている。
それに気が付いたもめは、満面の笑みを彼女に向けた。
「おお、エイダ! おまえのお父さんはおこりんぼだな。私がせっかく絵をかいてあげたのに、おこって出ていってしまったぞ」
「もーちゃん……それは当たり前だと思うです。ユージンさんの肖像画を描くはずが、何でこんな絵になっちゃうわけ? 誰だってこんな風に描かれたら、良い気分はしないです」
溜息混じりにベレー帽の上に手を置き諭すユウナだったが、しかしもめは引き下がらない。
「だって、私にはあのオジサンがこんなふうに見えたんだ。私はまちがってないぞ。そうだ、この絵はエイダにあげよう」
「やめなさいっ!」
「ふが……」
口元を引きつらせたユウナは、両手でもめの柔らかい頬を左右に引っ張る。
相棒が怒っている事をようやく察したちびっ子絵描きは、やっと大人しくなるのだった。
そのまま彼女の首根っこを掴んだユウナは、睨みを利かせている執事とうろたえるエイダに何度も頭を下げながら、一目散に玄関まで走り抜ける。
ただでさえお尋ね者に近い立場にあるというのに、これ以上事態がややこしくなるのは、彼女にとって好ましくないのだ。
数分後、部屋に忘れたままになっていた画材をもめが取りに戻って来たが、彼女が余計な事を言う前に、再び楽描屋は相棒の詩人によって光の速度で拉致られていくのだった。
それを見届けた執事の男は、音も無くその場を立ち去る。
手の空いた者に部屋を片付けさせ、自身はすぐに主の機嫌を取りに行かなくてはならないからだ。
部屋に残されたのは、一枚の絵のみ。
エイダは皆が去った事を確認すると、おずおずと応接室に入り、テーブルの上に置き去りにされている父ユージンの肖像画とおぼしき絵に目を落とし──言葉を失った。
そこには彼女の父も宝石も描かれてはおらず、しかし描かれている物は嫌というほどよく知っている。
──描かれていたのは、不安げな表情のエイダにそっくりな少女が、透明な瓶の中に閉じ込められている、そんな不思議な絵だった。
それに気が付いたもめは、満面の笑みを彼女に向けた。
「おお、エイダ! おまえのお父さんはおこりんぼだな。私がせっかく絵をかいてあげたのに、おこって出ていってしまったぞ」
「もーちゃん……それは当たり前だと思うです。ユージンさんの肖像画を描くはずが、何でこんな絵になっちゃうわけ? 誰だってこんな風に描かれたら、良い気分はしないです」
溜息混じりにベレー帽の上に手を置き諭すユウナだったが、しかしもめは引き下がらない。
「だって、私にはあのオジサンがこんなふうに見えたんだ。私はまちがってないぞ。そうだ、この絵はエイダにあげよう」
「やめなさいっ!」
「ふが……」
口元を引きつらせたユウナは、両手でもめの柔らかい頬を左右に引っ張る。
相棒が怒っている事をようやく察したちびっ子絵描きは、やっと大人しくなるのだった。
そのまま彼女の首根っこを掴んだユウナは、睨みを利かせている執事とうろたえるエイダに何度も頭を下げながら、一目散に玄関まで走り抜ける。
ただでさえお尋ね者に近い立場にあるというのに、これ以上事態がややこしくなるのは、彼女にとって好ましくないのだ。
数分後、部屋に忘れたままになっていた画材をもめが取りに戻って来たが、彼女が余計な事を言う前に、再び楽描屋は相棒の詩人によって光の速度で拉致られていくのだった。
それを見届けた執事の男は、音も無くその場を立ち去る。
手の空いた者に部屋を片付けさせ、自身はすぐに主の機嫌を取りに行かなくてはならないからだ。
部屋に残されたのは、一枚の絵のみ。
エイダは皆が去った事を確認すると、おずおずと応接室に入り、テーブルの上に置き去りにされている父ユージンの肖像画とおぼしき絵に目を落とし──言葉を失った。
そこには彼女の父も宝石も描かれてはおらず、しかし描かれている物は嫌というほどよく知っている。
──描かれていたのは、不安げな表情のエイダにそっくりな少女が、透明な瓶の中に閉じ込められている、そんな不思議な絵だった。