息抜きをしよう。
待ちくたびれた私は、ふらりと部屋を抜け出した。
もう三週間も音信不通だ。
元々、連絡の取りにくい人だったから慌てはしない。
けど、動揺は無限に広がる。
「なんでこんなに夢中になっちゃったんだろ」
考えてみても、それは後悔と同じ位無意味だ。
冷たい冬の空気を漂って、
ふと、交差点の信号待ちで、電柱に繋がれた一匹の犬を見た。
リードで繋がれたその犬は、怪我の為か脚に包帯を巻き付け痛々しく引きずっている。
近くに店など、ない。
飼い主は・・・どこ?
信号が青に変わっても、私はそこを動けずにいた。
堪らず、涙を零す。
その犬の姿が、自分に重なる。
私も、傷ついて、捨てられるの?
世の中を恨みたくなった。
「きみと私はきっと、同じ思いだね」
そっと隣りにしゃがみ込めば、凍えた瞳で私を見上げる。
私はただ、この犬に飼い主が現れる事を
切実に願った。
夜、
私は部屋を飛び出した。
鍵も閉めずに、
交差点へ向かう。
走った・・・
走りたかった、
人通りの寂しいそこの
冷たい電柱を見つめて
私は、
私は・・・
救われた気が、した―
fin
※ちょっと大人向けで直球です。
産婦人科の検診。
大丈夫だよという方はドウゾ。
「では、下だけ全部脱いで下さい」
私はやっぱり今日もか、と落胆しながらカーテンを閉めた。
検査結果を聞かされるだけじゃ終わらないよね。
私はこの瞬間から、次に服を着るまでの間が苦痛だ。
単純に、怖い。
何をされるかは分かっている。
そう、初めてではないのに、
処女を失う時のように痛みを感じる。
ただ、処女を失う時の方がマシだけれど。
「では、検査していきます」
ドロリとした液体と共に、
冷たいソレが入り込んでくる。
カーテンで遮られていて、先生から顔は見られないが
兎に角私はひどい顔をしていると思う。
ああ、これがアナタのものだったらどれほどいいか。
切なげな顔でも、愛しさが溢れるあの瞬間のように。
画面に映る映像など、見る余裕はない。
私は
くっ、と顔を顰めて手を強く握った。
息が上がる。
決してキモチよくて上がっているわけではない。
ああ、
あなたにキスをしてもらいながらなら
どんなにキモチよく感じるか。
「終わりましたよ」
ズルリと抜かれる感覚だけが
あなたのソレと、同じなのだ。
どうしようもなく、
苦しい。
「どうして」
そんな言葉だけが浮かんでは消える。
「だって仕事なんだもの。」
理由だって、分かってる。
仕方ないって、分かってる!
でも寂しいの・・・
ようやく会える喜びが、別の何かに奪われるその瞬間、私の体は急降下する。
ー突き落とされるのだ
沸々と、怒りが沸く・・・
仕事への怒りも、
貴方への怒りも、
全ては私が生み出した虚像
醜いね、私ってー
でも・・・
それも全ては確かな愛故ー
→あとがき
好きだからこそ、嫉妬したり怒ったり。
でもその感情自体は気持ちいいものじゃない。
無くしたいけど
無くせない
あるとイヤだけど
ないと物足りない
「どうしたらいいの!」
人間はこの言葉の中に在ると思う。
人に恋をしました。
お互いに恋をして
付き合い始めました。
4年経って、
変わらず付き合ってはいたけれど
何もかもが違っていました。
恋人を見つめる眼差しも
心から零れる言葉も
愛と言う名の戸惑いも
恋をしました。
新緑の若葉のように青々として、新鮮な風に揺られてゆっくりと季節が移り変わるようにやって来ました。
しかし、その人には恋人がいました。
そして私にも、相変わらず恋人がいました。
それぞれがそれぞれの恋人と嘗てそうであったように、私達は過去を懐かしむようにお互いに惹かれ合って、求め合って、いつしか貪り合うようになっていました。