『――靴?どなたかいら
してるのでしょうか?』
普段は見慣れない小さな
靴を目にして、少女は思
わず首を傾げてみる。
『……取り敢えず、お茶
のご用意でもしますか』
そう考えるなり、彼女は
少しばかり身を縮こませ
ながら足早に廊下へと歩
を進めていった。
***
底冷えのする長き廊下を
抜けて、少女はようやく
台所の前に到着した。
『お父様のお客様でしょ
うか?あの使い古した様
子からして女性の方では
なさそうですが……』
突然訪れた客人に思いを
馳せながら、少女は手際
良く二人分の緑茶と和菓
子をお盆に乗せて再び廊
下へと踏み出した。
その間にも、昔ながらの
木造の床は容赦なく足元
から少女の体温を奪う。
「今日は冷えますね」
そう呟きつつ彼女が白い
息を吐くと、それは瞬く
間に廊下の静寂さの中に
溶け込んでいった。