長きに渡る格闘の末に、
ようやく電車に乗り込ん
だ都は、ここに来て一気
に疲れが出たのか早くも
夢路に旅立っていった。
その間窓に映し出された
幾つもの木々や道路は、
都の思いを反映するかの
如く次から次へと走るよ
うに過ぎ去っていく。
「は~やっと着いたぁ」
電車に揺られること数十
分で地元の駅に到着する
なり、都は天に向かって
大きく伸びをした。
『ここは、あんまり変わ
ってないみたいやな』
幼少期から見慣れてきた
閑静な家々や子供達の笑
い声で賑わう公園を眺め
ながら、都は無意識に頬
を緩ませていく。
「――まだそこに居るん
ですよね?」
両腕を伸ばしながら表情
を和らげるといった些か
間抜けな体勢にもかかわ
らず、都は正面を見据え
たまま突如口を開いた。
「ウチのためにここまで
してもうて、ほんまに有
難うございました。綾瀬
さんにもどうぞ宜しゅう
お伝えくださいね」
尚も振り返らずにそう言
い残すと、都は徐に自宅
へと歩を進めていった。
――その時に、物陰から
足音が遠のいたことなど
彼女は知る由もない――