不自然なくらい部屋全体
が静まり返った頃、女性
はふと思い出したかのよ
うに話を始めた。


「それはそうと、確か都
について聞きたかったん
やっけ?一体何や?」


すると、壱加は徐に女性
の正面に座り直して真剣
な眼差しを向けた。


「あの事件について……
どんな些細な事でも良い
から教えてほしいんだ」


それを受け、女性は暫し
考え込んだがやがて言葉
を慎重に選びながらゆっ
くりと口を開いた。


「――そうやね~強いて
言うなら、いくら捜索願
出しても受理されんかっ
たってことやな……場所
変えていくら行っても、
“お宅のお嬢さんは誘拐
なぞされておりません”
の一点張り。それなら、
現に今も家に帰ってない
っちゅうのをどうやって
説明すんねんなぁ?」


そう言って寂しげに笑う
女性を目にするや否や、
壱加は血が滲むほど思い
切り唇を噛み締めた。




『警察の奴らまで、国家
とグルになってこの事件
の存在自体を揉み消そう
としてんのかよ!?』




あまりの理不尽さに腸が
煮えくり返った壱加は、
怒りのあまり無言で机の
上を何度も叩いた。

その様子を目の当たりに
した女性は、心配そうに
彼の顔を覗き込んだ。


「都がいなくなってから
連絡が全然入ってきいひ
んから、これくらいしか
教えられることがなくて
悪いんやけども……」

「いや、充分だ」


彼女の声でようやく正気
に戻った彼は、先程とは
打って変わった穏やかな
表情で答えていた。