壱加から向けられた頼り
なげな視線にようやく気
が付いた女性は、我に返
るなり徐に口を開いた。


「この部屋見て分かると
思うけど、あの子相当変
わった趣味してるやろ?
それでも表面上は明るく
しとったから、そこそこ
友達はいたらしいんやけ
ども……ある日この事が
原因でイジメに遭うて、
暫く学校に行かれんよう
になってしもたんやわ。
そんな中、唯一励まして
くれたんがやよちゃんや
ねん。その時、都に何て
言うたか分かるか?」


どこか憂いを帯びたその
問いかけに、壱加はただ
黙って首を左右に振る。


「“都ちゃんが都ちゃん
ならばそれで良いです”
やって……当時まだ10歳
にも満たへん少女の言葉
にしては、めちゃめちゃ
深いと思わへんか?」


次第に当時を思い出して
きたらしく、女性はそう
言うと何故か盛大な溜め
息をついて見せた。


「その言葉で、どんだけ
都が救われたことか……
けどな、いくらあの頃の
石河家の家庭環境が複雑
だったとしても、そない
小さな子が言うにはあま
りにも重たすぎんねん」

「どういうことだ!?」


先程の徹の言葉と結びつ
くような発言に、壱加は
机から身を乗り出した。

それに対し、女性は一瞬
目を見開いたもののすぐ
に落ち着きを取り戻す。


「余所様のことやから、
流石にウチの口からは言
われへん。そない知りた
かったら、やよちゃんに
聞くなり話してくれるん
を待つかせなあかんよ」


そう言って自身の人差し
指を口元にあてたきり、
女性は頑として続きを話
そうとはしなかった。