『――遂に来ちまった』


既に水気を含み文字が滲
んだ地図を片手に、壱加
は目的地をしげしげと眺
めていた。




閑静な住宅街に佇むその
家は、明るめの壁や至る
所に細工が施された門扉
等からどこか北欧を思わ
せるものであった。

また、庭先には背の高い
木や数種類の花々が植え
られ、暗がりや大雨にも
かかわらずその雰囲気を
一層引き立てていた。




『えっと、確か名字って
のを言うんだよな?』


はやる鼓動を押さえつつ
壱加はゆっくりインター
ホンに指を置いた。


「はい?」

「夜遅くにすみません。
ええっと……初めまして
藤堂壱加です。今日は、
都さんについて聞きたい
ことがあって来ました」

「いきなり何なんです?
こんな時間に押しかけて
くるわ、都のことを聞き
にくるわ……単なる冷や
かしでしたらお引き取り
願えますか?」


冷え切った口調であから
さまな拒絶を受け、壱加
は慌てて言葉を続けた。


「俺、弥嘉……石河弥嘉
の友人ですっ!!アイツ、
都さんが事件に巻き込ま
れてからずっと手掛かり
を探し続けてるんです!!
だけど一向に見つからな
くて最近はめっきり塞ぎ
こんでいて……少しでも
アイツの力になってやり
たいんです!!」

「……やよちゃんの?」


インターホン越しに息を
飲む音が、彼の耳に微か
に届いてきた。


「――そういうことでし
たら、何もありませんが
どうぞお上がり下さい」


相手がそう言い終わるや
否や、扉のほうから目が
くらむような一筋の光が
差し込んできた。