未だに唖然とする壱加を
差し置き、徹は尚も言葉
を紡いでいった。
「まあ……これを匂わす
ことを前に弥嘉に言った
気はしなくもないがくれ
ぐれも内密に頼むな」
それを契機に、ようやく
壱加は我に返った。
「別に構わねぇが、何で
弥嘉には駄目なんだ?」
「これは私なりのけじめ
でもあり、罪滅ぼしでも
あるんだ。最初に壱加が
言った通り、私は今も昔
も弥嘉にエゴを押し付け
ているに過ぎない」
「はあっ!?昔ぃ!?」
耳慣れない単語に思わず
聞き返した壱加に、徹は
あえて触れずに続けた。
「――勝手に守護者の道
を歩ませておきながら、
これから先起こり得るで
あろう様々な困難に直面
しても心が折れないよう
な強さを身に付けて欲し
いと切に願っている……
そのためならば、たとえ
彼女に相当な苦痛をもた
らし得ることだとしても
厭わずに行うつもりだ」
「――!!!!!!だから都と
やらを探すための書類に
簡単に判をついたのか」
何気ない壱加の呟きに、
徹は静かに頷いていた。
「――既に知っていると
思うが弥嘉は自分を卑下
する傾向がある。ただで
さえあの頃はいらぬ苦労
をかけてしまった。これ
以上あの子の不安材料を
増やしたくないんだ……
お前が黙ってくれれば、
彼女は私を責めるしかな
くなる。その痛みは私が
甘んじて受けよう」
「……お前らはどんだけ
自虐的な親子なんだ!?」
まるで徹自体が諸刃の剣
のようだと感じながら、
壱加は端正な顔を歪める
ことしか出来なかった。