半ば放心状態の弥嘉は、
その本を元の位置に戻し
徐に書庫をあとにした。
行きしは短かったはずの
回廊が、今や絞首台へと
真っ直ぐに伸びる道筋の
ように感じられ、必然と
足取りは重くなった。
遂に石壁へと辿り着くと
それは弥嘉を巻き込んで
ひとりでに回転した。
ようやく回転が終わると
今までその場に座りこん
でいた壱加が、急に立ち
上がった。
「――!!!!!!弥嘉っ!?」
そう言うや否や、壱加は
弥嘉の元に駆け寄った。
「結局どうなったんだ!?
目的の本は見つか……」
続きの言葉が喉まで出か
かった時、彼はようやく
弥嘉の異変に気付いた。
「……弥……嘉?おい、
一体どうした?向こうで
何があったんだよっ!?」
最早何も映さなくなった
薄茶色の目を心配そうに
覗きこみ何度も肩を揺す
るが、弥嘉は何も答えよ
うとはしなかった。
それどころか弥嘉は彼を
置き去りにして、早々に
階段を登っていった。