「あの顔、間違いない」


風に掻き消されるほどの
囁き声と共に街路樹の陰
から数人の男が勢い良く
飛び出してきた。

その後すぐに彼らは都の
元へと走り寄るなり彼女
の腕を強引に掴んだ。


「なっ、いきなり何すん
ねん!!離しぃや!!」


とっさの事で唖然とする
ものの、都は元来の気丈
さでそれを振り払おうと
何度も体を揺すった。


「くっ……抵抗するぞ」

「力使われたら面倒だ!!
その前に車に乗せろ!!」


しかしそれが余計に彼ら
を煽ったらしく、彼女に
対する拘束力は強くなり
対象も腕から首へとエス
カレートしていった。

それにもかかわらず道行
く人は哀れむような目を
こちらに向けるだけで、
誰一人として彼女を助け
ようとはしなかった。

その態度が、都を苛つか
せる要因となるのにそう
時間はかからなかった。


「ウチに気安く触んなや
このあほんだらぁ!!」


怒りに任せてそう叫ぶと
都は自身の首にまとわり
付く男の頑丈な二の腕に
思い切り噛みついた。


「――っ痛ぇな!!」


しかし、彼は力を弛める
こともなくそのまま都を
引きずって無理矢理車に
押し込めようとした。


「や、やめてください」


それを見かねた弥嘉は、
男の腕をほどこうと彼の
手の角度を懸命に変えて
みたがびくともしない。


「嬢ちゃんはどいてな」


弥嘉のささやかな抵抗も
虚しく、男によっていと
も簡単に地面に叩きつけ
られてしまった。




――ここで弥嘉の記憶は
途切れたのであった――