書物を求めて長き回廊を
渡る間、弥嘉はふと3年前
のとある出来事を思い出
していた。




「弥嘉ぃ~こっちや!!」


多くの人々が常に行き来
する橋浪駅の改札前で、
黒いボブヘアーの少女は
弥嘉を目にすると大きく
手を振って呼びかけた。


「――都ちゃんっ!!」


それを見るや否や弥嘉は
息を切らせ駆け寄った。


「今日はどないしたん?
アンタにしては、かなり
珍しいんちゃう?」

「すっ、すみません……
電車……が……どうやら
遅れてた……らしくて」

「そりゃ難儀やったな」


既に疲れきっていた弥嘉
の肩を都が軽く叩いた。


「そんで着いてすぐ悪い
んやけどあっち行こか」

「は……はい」


都に連れられるままに、
弥嘉は歩を進めていた。




     ***




「いっや~ここ可愛いの
ぎょーさんあるわぁ!!」

「そ……そうですね」


黒い瞳を目一杯輝かせる
都とは対照的に、弥嘉は
顔をひきつらせながらも
一応は同意した。




一見ハロウィン調に統一
された店だが中に入ると
妙にリアルなゾンビ人形
が数体連なって天井から
ぶら下がっていた。

また、壁の至る所に赤や
黒ペンキで“GO MAD!!”
“虞露至上主義者”等の
文字が次々と躍る。

さらに、デス・メタルと
深紅の照明効果も相まり
おどろおどろしさが余計
強調されていた。




「おばちゃん、これ1つ」


店内の雰囲気に恐れおの
のく弥嘉を置いて、都は
早々にレジへ向かった。


「思わず買うてしもた」


胸を剣で貫かれ血まみれ
となり果てた魔女の人形
を嬉々として眺める都に
弥嘉は苦笑を漏らした。