実に不毛な会話が一段落
した頃、壱加が突如弥嘉
の服の裾を引っ張った。
「なあ……あれ何だ?」
「――あれ、とは?」
弥嘉は彼が見つめる先へ
徐に視線を動かした。
すると、一カ所だけ明ら
かに配置の異なる本棚が
奥の方に見受けられた。
「あっ……あんな所に!!
お手柄ですね、壱加っ」
彼女は興奮のあまり思い
切り壱加を抱きしめた。
それにより、壱加はたち
まち顔を紅潮させた。
「なっ、何しやがる!!」
「は……はい?」
「はい?じゃねぇ!!いい
加減俺から離れろっ!!」
「少しくらいは良いじゃ
ありませんか……」
「よ・く・ね・ぇ!!」
尚も離れようとはしない
弥嘉を、壱加は無理矢理
引っ剥がした。
『――アイツ、ぜってぇ
気づいちゃいねぇ!!あん
なに引っ付いたら胸あた
んだろうが!!あまりにも
危機感というか警戒心が
なさすぎやしねぇか!?』
壱加がそのような苦悩を
抱えていることなどいざ
知らず、弥嘉は不満げに
頬を膨らませていた。