暫し何気ないやり取りを
交わした後、突如弥嘉は
扉の方向へ足を向けた。
「では、いってきます」
そう言い残して出ようと
する彼女の腕を、壱加が
思い切り引っ張った。
「待てよ、俺も行く」
「で……ですが」
「てめぇを1人で行かせる
とロクなことがねぇ気が
するんだよ、何となく」
「――濡れ衣ですよ」
どこか確信めいた壱加の
言葉に弥嘉は思わず苦笑
を漏らした。
***
彼の足の容態を気にしな
がらも、結局弥嘉は図書
館までの同伴を許した。
受付に到着すると、先日
とは違う女性が本の整理
を行っていた。
「あの、すみません……
書類を持ってきました」
そう言うなり弥嘉は徐に
鞄から重量感のある茶色
の封筒を取り出した。
「中身を確認しますので
少々お待ちください」
彼女がそれを受け取って
作業を始めると、辺りが
一斉に静まり返った。
どこか殺伐とした雰囲気
の中、弥嘉はかつてない
程の鼓動の激しさをひし
ひしと感じていた。
「――はい、結構です。
鍵を登録しますので学生
証を提示してください」
「はっ、はい……」
先程までの緊張感が尾を
引いているのか、弥嘉は
恐る恐るそれを手渡す。
一方彼女は、弥嘉の挙動
には目もくれずに淡々と
リーダーに通した。
「第二閲覧室の北にコの
字型に並べられた本棚が
ありますから、そちらの
中央に立ちこの学生証を
かざしてください」
彼女はそう言って学生証
を弥嘉に返すなり、再び
自身の仕事に戻った。