しかしながら壱加はその
僅かな異変に気付くこと
なく夢中でその頃の話を
語り出した。
――時は、今からおよそ
2ヶ月半前までに遡る――
体全体が凍り付くような
厳しい寒さの中、壱加は
神妙な面持ちで古き良き
日本家屋の戸を叩いた。
「久しぶりだな、徹」
「ああ、壱加か……まあ
上がっていきなさい」
懐かしさに浸る間もなく
徹は壱加を客間に通す。
「さて……大体の予想は
ついているが、一応話を
伺っておこうか」
そう言って徹が腰を落ち
着かせると、壱加は鬼気
迫るような声を上げた。
「――急で悪ぃんだけど
守護者の要請と人探しを
頼みてぇんだっ!!」
「本当に急な話だな……
守護者の要請はともかく
人探しは警察にでも頼む
んだな。流石の私もそこ
までは面倒見切れない」
「そこを何とか!!もう徹
しか頼れる奴がいねぇん
だよ!!俺ら相手に警察が
まともに取り合ってくれ
ねぇことくらい知ってん
だろ!?金ならいくらでも
払ってやるから!!」
必死の形相で訴える彼の
姿に根負けしたのか徹は
徐に溜め息をついた。
「子供が安易に金の話を
持ち出すもんじゃない。
まず話を最後まで聞いて
から全て受けるかどうか
決めさせてもらう」
その言葉を聞くや否や、
壱加は少しばかり表情を
弛ませていた。