Drop,00
本当に欲しいのは
自分の“居場所”
『誰かに必要とされたい』
ただ、それだけなんだ……
Drop,01
【カラメルミルク】
指先から伝わる風が冷たくて、凍えそうなくらい寒い。
世間では、温暖化や異常気象について騒がれているのに…
雪があまり降らない都会で冬の寒さを感じると、そんな話は嘘みたいに思えてしまう。
「はぁ……」
ため息混じりの真っ白な息が、宙を舞ったかと思うとすぐに消えた。
家には帰りたくないけど、こんな寒空の下で一夜を過ごす事なんて出来るハズが無い。
それでも行く宛の無いあたしは、アスファルトの地面を見つめながら重い足取りで歩いていた。
コートのポケットから、おもむろに携帯を取り出す。
自分でデコった携帯は手触りは良くないけど、すごく可愛いから気に入っている。
ジャラジャラと鳴りながら揺れるストラップを横目に、手早く発信ボタンを押してから携帯を耳に当てた。
「もしも〜し?」
すぐに電話に出た相手が、テンションの高い声で言った。
「あっ、あたし!」
「うん、どうしたの?」
必要以上に明るく答えたあたしに、電話の向こうにいる相手が不思議そうな声で訊いた。
電話の相手は、親友の松村早苗(マツムラサナエ)。
あたしが家に帰りたくない理由を知っている、唯一の友達。
「希咲(キサキ)?ねぇ、聞いてるの?」
ちょっとハスキーな声で、あたしに問い掛ける。
その声がカッコイイ。
「聞いてるよ〜。ねぇ、今日泊まりに行ってもイイ?」
あたしは、いつものように明るく訊いた。
だけど…
「あ〜、ごめん……。今日はちょっと……」
早苗は、申し訳なさそうにため息をついた。
「そっか……」
「うん、ごめんね……」
「ううん、謝らないでよ!あたしの方こそ、いつも急でごめんね!」
早苗に心配を掛けたくなくて、明るく振る舞う。
「希咲、また帰らないの?」
「ん〜、まだ決めてないけど、行く所がなかったら帰るよ!てか、野宿は無理だしね!」
あたしは冗談っぽく言った後、ハハッと笑った。
「大丈夫?」
「うん、全然平気!じゃあね!」
優しく訊いてくれた早苗に明るく返して、電話を切った。
「どうしよっかなぁ……」
ポソッと呟いた言葉は冷たい空気に包まれて消えるだけで、肝心の解決策は一向に浮かんで来ない。
寒さでジンジンと痛む耳のせいで、雑踏が欝陶しくて堪らない。
ため息をつきながら立ち止まって、目の前に見えた駅から逃げ出すように踵を返した。
その瞬間…
「希咲?」
聞き覚えのある声に、名前を呼ばれた。
「凪兄(ナギニイ)……」
思わず振り返ってしまったあたしは、反射的に彼の名前を呟いていた。