玄関を出て、マンションの階段を下りる。
 階段を下りている間――ずっと涙が止まらなかった。

(おい、なんで泣いてるんだよ?)

 私の涙の理由を分からない隼人くん。
 そんな隼人くんの事すら気にしていられないくらいに――涙は止まってくれない。

 涙を拭うことしか出来ず、何も語らない私に隼人くんがひたすら話しかけてくる。

(昨日は聞きそびれたけど――お前何か隠してるだろ?)

 隼人くんの言葉に黙って首を横に振る私。
 せめて隼人くんには気付かれないように誤魔化したいのだが――言葉を出せる状態ではない。
 そんな私を見て、隼人くんがここぞとばかりに畳み掛けてくる。

(大体だな、内緒話だとか、好き勝手に行動したりとか、俺に対する態度が露骨に変わったりだとか。
昨日からおかしいんだよ。
なんか隠し事をしてるっつーか、『何か』から俺を遠ざけようとしてるような雰囲気とでも言うか――)

 ここまで言って、隼人くんが何か気付いたように言葉を止める。

 しかし、すぐに思いなおしたように言葉を続ける。

(昨日も言っただろ? お前は一人じゃないんだ。何か悩みがあるなら……話せよ)

 隼人くんの優しい言葉でも……私の覚悟は動かない。

「――大丈夫。何も悩んでないよ。真里を待たせちゃう、早く行かなきゃ!」

 顔を上に向けてグイっと涙を拭う。
 そうだ、もう泣いてなんていられない。
 私は――悩んでなどいないのだから。

――私が消えるのは、私が大好きな二人の人間のためだから。

 だから私は迷うことなく……この世から消えてみせる。