私にとって最後の食事を終え、出かけるための身支度を済ませる。
 出かける前に真里に電話をする。
 これで最後だから――失敗はしたくない。

 四コール目で真里は電話に出た。

「もしもし?」
『はいー? 何?』
「今から出るから――そっちも準備できてるよね?」
『うん……。じゃあ私も出るわ』
「分かった。じゃあ、駅前で待ってる」
『うん。出来るだけ早く着くようにする。じゃあね――』

 お互いに緊張のためか、事務的な会話に終始して電話を終える。

 そのまま部屋から出るとリビングに居たお母さんに呼び止められた。

「マリちゃん、ちょっとだけ……良いかな?」

 立ち止まり、お母さんの話を聞く。

「マリちゃんが隠してること……何となくだけど分かるの。
でも……マリちゃんがどう考えてるのか私には分からないけど――」

 お母さんは目に涙を浮かべている。

――やっぱりバレてたのか。

 そう思った瞬間、お母さんが私を抱き締めた。
 抱き締めながら、まるで私にお願いするように語り掛けてくる。

「でも……出来れば戻ってきて。それで、一緒にお祝いのご馳走を食べよう――」

 出会ってから――ずっと気丈だったお母さんが涙声で私に語りかける。
 もらい泣きしそうになりながら、私を抱き締めるお母さんを引き離す。

「お母さん……上手くいえないけど。ありがとう! 私、がんばってくるから――」

――最後に泣き顔は見せたくないから。

 お母さんの『記憶』に残るようなとびっきりの笑顔で――。