私のどさくさに紛れさせた『お願い』。
 隼人くんは拗ねたような様子ながらもそれを受け入れた。

(結局……言わせたいんじゃねえかよ。分かったよ、約束してやる。
お前が……『元に戻ったら』ちゃんと言ってやる。だからあまりからかわないでくれ)

 最後に自分の『お願い』を付け加えて、隼人くんとの『約束』は完了した。
 うん、これからはなるべくからかわないよ。

――だから、私との『約束』をちゃんと果たしてね。

 隼人くんとの『約束』を終えた直後。
 私と隼人くんの間に沈黙が生まれる。

 時間にしてみればそんなに長くは無いのだけど、『沈黙』というものは時間を長く感じさせる効果があるらしい。

 どちらも話し出すきっかけを失い、部屋の中の状況が膠着しかけたその時だ――。

ピロリン♪――。

 机の上に置かれた携帯が着信を知らせる。
 ベッドから立ち上がり、机に向かう。

 携帯を取り上げ、ディスプレイを開く。
 着信は真里からメールだった。
 内容を確認し、私は最後の覚悟を決めた――。

(おい、誰からだよ?)

 隼人くんの問いかけには言葉で答えるのではなく、携帯の画面を見せることで答えた。

 メールを見て隼人くんが呟く。

(――いよいよ……なんだな)

 その呟きに大きく頷いて応えた。

――真里から届いたメール。『お風呂だよ』メールでも『おやすみ』メールでもなかった。

From:真里
Subject:(nontitle)

覚悟完了。

明日の朝に決行でいいよね。
覚悟が鈍らないうちに。
           真里

――いよいよ、私に残された時間はカウントダウンを開始した。