拗ねるようにソファに座る隼人くんをリビングに残し、一人でベランダに続く窓を開ける。
 ガラッという音に気が付いたのか、外を眺める視線をこちらに向けるカズちゃん。

「よおっ、帰ったんだな」

 右手を小さく上げて私に声をかけてくれる。

「うん、ただいま。今朝はありがとうね」

 朝のうちに言えなかったお礼をここで言っておく。
 カズちゃんは頭を掻きながら照れている。

「なぁーに、ただ『視る』だけだからな。ラクなもんさ――」
「違うの」
「ん? 違うって?」
「真里のこともあるけど――隼人くんのこと怒ってくれたでしょ。私のことで」

 カズちゃんが隼人くんを怒っている姿を見て、私は凄く救われた。
『ここにいる私は真里の付属品なんかじゃない』と。
 確かに私は真里の『一部』だ。
 でも、ちゃんと意思があって――今では独立した一人の人間のような気さえする。

 隼人くんが私に対して態度が冷たかった理由。
 それは――きっと隼人くんは『私が消える存在』だということを知っていたんじゃないかと思うのだ。
 そして、それを隼人くんに気付かせたのは――多分カズちゃん。
 そのことは恨んではいない。恐らく隼人くんに『魂とはどんな存在か』みたいなことを教えているウチに隼人くんも気付いてしまったんじゃないかな?
 私がお母さんの話を聞いて、自分が『夢のように消える存在』と気付いてしまったのと同じだろう。

そ れに気が付いて、これは私の予想だが――『私が心置きなく消える』ことができるようにわざと冷たい態度をとっていたのではないだろうか?
 そこに気がつくまで、その冷たい態度に何度傷ついたことか――。

……いや、そんな話じゃなくて。

 とにかく、カズちゃんのとってくれた態度のおかげで、私は自分も一つの確立した存在だと自分で思えるようになった。
 そこは本当に感謝したい。