「まあ、すぐには覚悟ができんじゃろ――ゆっくり考えなさい」

 悩み続ける私に向けられたお祖父ちゃんの慰めの言葉には、私を諭すような空気が込められていた。
 もし、本気で元に戻りたいのなら――選択の余地はないのだ、と。
 考えるとは……覚悟を決めるために考えろ、そういうことなのだろう。

――私は考える。

 私に霊力が無く、満月の夜は昨日終わった。
 次の満月の夜はまだまだ先だ。
 つまり――『入れ替わりの儀式』は使えない。

 そうなると戻るためには『閨の儀式』をカズちゃんとするしかないのだ。

『閨の儀式』、カズちゃんと私で……セックスをするのだ。
 そうすれば元の体に戻れる。

 でも……セックスかぁ。
 どんなことをするのかは分かっている。
 学校の保健体育でも勉強したし、男の子たちが読むようなエッチな本を見たこともある。
 それを見聞きしたときには特に何の感慨も無かった。
 ただ、『いずれ自分もするようになるのかなぁ』と他人事のように考えていた――。

 そんな近いものに感じていなかった『セックス』を、カズちゃんとする……。

 人間とは予想外の出来事に出会うと考えることが出来なくなってしまうのだ、と実感する。
『入れ替わり』が自分の身に起こり、その元に戻る方法が『セックス』。

 これから成すべきことを考えなくてはいけないはずなのに――私は何も考えられていない。
 思考が同じところをクルクル廻っているだけ。

『考えるのと悩むことの違いは一つだ、考えることは思考が前進する、悩みは立ち止まった思考なんだ』

 何かの本で読んだ一節を思い出した。

――そうだ、悩んでばかりじゃいられない。考えよう!考えなきゃ!!