「私、ずっと元に戻れないのかなぁ?」

 泣き言とも愚痴ともつかない言葉が口をついて出る。

(そうなると、困るのは俺なんだけどね)

 私の発言を受けて隼人くんが言う。
 鏡ごしに見える顔もちょっと苦々しげだ。
 そりゃあそうだよね。
 私が一番困ると思っていたが、私に体を乗っ取られてる状態の隼人くんのほうがもっと困ってるに違いない。
 なんとかして元に戻る方法を考えないとねぇ。

「それでさ……」

 真里が切り出す。

「今すぐ戻るのは無理かもしれないから……。
今のうちにこれからどうするか決めておいたほうが良くない?」

――ん?これから?

 隼人くんも同じことを思った様子。

(これからって?どういう意味だ?)

 いや、自分が考えてることながらどういう意味かがよく理解できない。

「その……隼人くんをアナタが演じないといけないわけでしょ?」

 う……忘れてた、忘れていたかった。
 本当にどうしたもんだろ……?

「うーん、他人を演じる自信なんかないよぉ」

 自慢じゃないけど演技なんかしたことは無い。
 真里もそれを分かってるからこそかなり不安そうな顔でこっちを見ている。

(まぁ、学校はあんまり行ってないから何とかなるし、
問題はお袋に見抜かれないようにすりゃいいんだが)

 ああ、朝見かけたあの女の人かぁ
 やっぱり二人暮らしなわけ?

(親父は子供のころからいなかったしな、お袋以外は連絡とらなきゃ近寄ってこないよ)

 ふむ、それでも……お母さんにバレたらどうするんだよ!

(ま、いいんじゃね?お袋の書いてる小説のネタにされるだけさ)

 小説のネタって……あんたそれでもいいんかい!?
 ってお母さん小説家なんだぁ。

(面白ければいいんじゃない?退屈してたからしばらくはこのまんまでもいいさ)

 面白ければって……あんたドSでしょ?
 私が困ってるのを見て楽しんでるでしょ?

(そんなことねーよ、分からないことがあったら鏡を持ち出して俺に聞け!)

 やっぱり……隼人くんってSだよね?
 私の中のMレーダーがバリバリに反応してるし。