というのも彼には弟がいる。
 二つ年下の十歳の男の子、名前は直哉くん。
 直哉くんは病弱なようで、隣同士に住んでいながらもあまり姿を見たことが無い。

 長年、何かの病気を患って家の中で治療に専念していたのだそうだ。

 つい先日、その直哉くんの病気が全快したと聞いていたのだが……。
 今度はカズちゃんが直哉くんと同じ病気に罹ってしまったそうだ。
 幸福と不幸は往々にして同時に来てしまうものだと考えさせられる。

 全快したばかりの直哉くんの傍にカズちゃんがいると、直哉くんに再発の可能性がある。
 そういった理由でカズちゃんが幼いながらも一人だけ家を出て治療に専念することになったのだそうだ。

――弟のように可愛がってきた男の子が遠くに行ってしまう。

 言い様のない寂しさを覚えるが……病気というならどうしようもない。

 せめて見送りを、そう思い、こうやってカズちゃんに声をかけた。