苦しくなった胸を、

何も考えられなくなった頭を、

必死に必死に落ち着かせ、空を見上げた。


今日の雲は流れるのが速い。


これだけ時が経つのも早ければいいのに─…



『亮、さっきはありがとな。驚いたよ、亮があそこまでキレるなんてさ』


『だって耳障りだったからな、光輝は無理してんじゃねぇの?』


『…かなりね』


隣に座っていた亮は、
寝転んだ。


『稲葉ってやつどんなやつだろうな?
一回見に行くか?』


『いや、まだいい。
今見ると俺、そいつを殴ると思うし…まだいいわ』


『そっか、まぁ俺がいるから安心だろ!』


『そうだな!』



俺はこの時、
なぜ稲葉という人に会いに行かなかったのだろう。


あとから、もっともっと辛い事になるとは知らなかった。


苦しくなった胸が、
考えられなくなった頭が、

更に強くなるとは知らなかったんだ──……