−−己の身体を切り裂く感覚は、
今でも忘れられない。
『腹を切る作法も知らぬ下司め!』
仕えていた上官にそう罵られ、切れた俺は自分の腹を自らの手で切り裂いた。
思っていたより痛みは酷く、一瞬にして床が血で染まった。
しかし−−
目の前で呆然と立ち尽くす上官の顔を見て、痛みよりも先に笑いがこみ上げてきた。
『…何やってんだ、俺はよォ。』
傷口を指先でなぞると、暖かい血液がべっとりと掌を染めた。
人を切った時と同じ匂いが、鼻腔を擽る。
…こんな事で、死ぬのか。
心臓の音がいつもより大きく聞こえた。
世の中が荒れる中、武士として真っ直ぐ生きていきたいとだけ願っていたのに−−
死を目の前にすると、後悔の念だけが押し寄せた。
拙い…遣り残した事が、有り過ぎる。
俺は其の侭、床に倒れ込んだ。