こんな大事な時に顔も目も見れない男を。
不器用な伝え方しかできない男を。
きつい言い方しかできない男を。
いつか見捨てていくんじゃないかって……不安で仕方なかった。
おれは俯いて唇を噛んだ。するとおれの腰に細い腕が回った。
それに驚いて顔をあげると、楓がおれに抱きついていた。
「え……ぉ?」
焦って言葉がでないおれを見て楓はクスッと笑った。
「優雅……いいとこないとか言わないの」
「え?」
「あんたはそうやってあたしを一途に思ってくれるじゃない。幸せにしようとしてくれてるじゃない」
楓はそう言っておれの胸に頭を寄せた。
「どんな完璧な奴が現れたって……あんたには敵わないよ」
……へ?
楓の言葉が理解できずボーっとしていると、楓はおれを睨んだ。
「理解遅いし。馬鹿だし。単純だし。短気でうっさくて。ホントいいとこないけど……あたしはそんなあんたが好きなの」